コロナの感染拡大に伴ってよく耳にする単語があります。
それは「パルスオキシメーター」です。
指先をちょっと挟んでデータを表示させる、今や誰もが知っている血液中の酸素飽和濃度を測る機械です。
昔は大変高価なものでしたが、今では通販でも簡単に買えるようになり、ご家庭でお持ちの方も多いと思います。
私も仕事柄、慢性閉塞性肺疾患の患者さんなどを治療するときは必ずこの機械のお世話になっています。
今日はそのパルスオキシメーターの発明の偉業について考えてみたいと思います。
まずは血液中の酸素の運搬を考えてみましょう。
赤血球は全身に酸素を送り届ける輸送トラックと考えられますし、その荷台がヘモグロビンと例えることができます。
赤血球の中に含まれるヘモグロビンが酸素と結合したり離れたりすることで人体各所での「酸素の積み下ろし」をしているのです。
日頃病院には酸素が足りなくなって救急搬送される人がたくさんいます。
では「酸素がどれくらい足りないのか」を知るためには何をすれば良いのでしょうか?
もう40年位前私が病院で働いていた頃から「血液ガス分析」という検査が行われていました。
もちろん血中酸素濃度のほかにいくつかの指標が検査されます。
これは医師が実際に手首の動脈に針を刺し採血し酸素飽和濃度を調べる検査です。
手首の動脈の近所には多くの神経が走っているため充分注意が必要です。
そしてこれは患者さんにとっても苦痛を伴う検査でもありました。
またこの方法には欠点がありました。
実は採血した瞬間の状態しかわからないことです。
重症患者さんの病状は刻一刻と変化します。
その度(例えば10分毎)にこのような採血が行われると患者さんはたまったものではありません。
もう一つの欠陥は、意識がない人の「酸素が足りないこと」を知るのが難しいということです。
例えば全身麻酔手術の最中は呼吸を完全に止め、人工呼吸器で空気の出し入れを行います。
もしこの段階で肺に何らかのトラブルが起こっても、患者さんは「息苦しさ」を訴えるはずがありません。
意識の無い外来・入院患者さんもまた「息苦しさ」を訴えるすべがありません。
血圧や脈拍、体温を測定するのと同じように、体に傷をつけることなく継続的に酸素飽和濃度を知ることはできないか・・・・
これは世界の医学会の大きな課題でした。
つづく