昨日の続きです!
M教諭は
「通知表はインパクトが強すぎる。いくら『通知表には表せない力がある』とほめても、子どもの耳に入らなくなってしまう」とも語っていました。
ただ、M教諭のような廃止論は当初、大勢ではIなかったようです。
ほかの教員からは
「モチベーションになっている子どももいる」
「保護者は通知表がないとさみしいのでは」
という意見が当然出ました。
ほかに、こんな意見も出たようです。
「3年生以上も2段階評価で統一することで、子どもの間に序列を付ける副作用を和らげてはどうか」
意見が分かれる中、議論のまとめ役を担ったY教諭は
「何のために通知表を出すのか、という原点に戻って考えよう」と熱心に説いてまわりました。
Y教諭
文部科学省は、学習評価の在り方について
「評価のための評価」で終わらせず、子ども自身が学んだことの意義や価値を実感し、目標や課題をもって学習を進めていけるようにすることが大事だと指摘しており、教員の指導の改善に役立てることも重要だとしている・・と。
評価というと、通知表やテストのようなものばかりが頭に浮かびがちです。
しかし、毎日の授業で子どもの取り組みに声をかけるのも、提出物にコメントを付けるのも、まちがえなく評価の一つの形です。
Y教諭も子どもたちの学びを後押しする観点から考えたとき、通知表は望ましい評価の手段だろうかという問題意識を持っていたのです。
教員たちは意見を交わしました。
国分校長は極力、口を出さずに議論を見守りました。
校長の権限を振りかざすだけでは、この学校に根付かないと考えていたからです。
話し合いは2年間に及び、最終的に廃止が決まりました。
通知表廃止を決めた20年4月からの新年度は、新型コロナウイルス感染拡大による一斉休校という異例の事態の中で始まりました。
学校はコロナ対策で手いっぱいになりました。
その結果保護者に対し、通知表を廃止する意図を十分に説明しきれませんでした。
すると、保護者からは「通知表のように、紙として残るものを作ってほしい」との声が上がってきました。
そこで国分校長は、子どもに自己評価シートを書かせることを提案します。
子ども自身に、半年間の学習を振り返らせようとしたのです。
ただ、実際にやってみると、半年間の学習を今後の学びにつながる形で振り返れた子どもは少なかったのです。
教員にとっても、一つ一つにコメントを付ける負担は大きくなりました。
この状況に、慶応大の藤本和久教授はアドバイスします。
藤本教授は定期的に香川小を訪れ、授業の見学や助言をしています。
「自分が学んだことを言語化するのは大学生でも難しい。逆上がりがどうしてできるようになったのかは本人にもよく分からないというのと似ている。振り返りにこだわりすぎなくてもいいのでは」
教員は試行錯誤の連続でした。
通知表をなくした代わりに、これまで以上に子どもの変化や成長に気付くようになりました。
メッセージで伝えたり、提出物をこまめに返して保護者に学習状況を知らせたりしようと心がけました。
その結果、「時間がかかりすぎて授業づくりができない。本末転倒だ」と頭を抱える教員もいました。
つづく