前回の続きです。
清く貧しく美しくを奨励されて、みんながモノを買わなくなったら、消費が落ち込んで、経済成長率は下がって、世の中は大変なことになる。
人間は、幸せになるために生まれてきた。
じゃんじゃん消費して、経済成長して、みんなで豊かになろうっていう高度経済成長期の幸福論は、バブル崩壊だの、大災害だのいろんなことがあって、いったんは否定されたはずなのだが、今も脈々と生きている。
大志を抱け、夢を持てと子どもにいうのも、そういう文脈の話だ。
なにしろその夢の見本が、スティーブ・ジョブズやマイケル・ジャクソンだったりするわけだから。
とにかく成功して、金持ちになって、いいクルマだの家だの自家用ジェットだの、なんでも好きなモノが買えるようになるっていうのが、
要するに普通の大人が普通の子どもに教えている平均的な大志や夢の中身だ。
ミもフタもない話だけど。
石川遼が出てきたときは、子どもにゴルフを習わせる親が増えた。
今は錦織圭を目指してテニススクールに通う子どもが増えているんだろう。
夢を抱けっていうのは、前向きに生きろってことなんだろう。
夢がかなうと信じて、一所懸命に勉強したり、スポーツに打ち込めってことだ。
子どもの鼻先に夢という名のニンジンをぶら下げているわけだ。
だけど、夢を持てば、誰もがスポーツ選手になったり、大金持ちになれるわけじゃない。
お笑いの世界にも、近頃は何を勘違いしたか、
そういう成功を求めて飛び込んでくる奴らがたくさんいる。
昔は、子どもが芸人になるなんて、親の恥だった。
俺の母親は、俺が浅草のフランス座で働き出したときは、息子は留学してますなんて近所にいってたくらいだ。
今はもう、そんなことをいう親はいない。
芸人になって、テレビでみんなに笑われるのは、誇るべき職業ということになったらしい。
それも、芸人が儲かるっていう話が広まったからだろう。
実際に儲かっている芸人なんて、それこそ一握りでしかないのに。
夢をかなえた、ごく一握りの人にスポットライトをあてて、夢を見ろと煽る。
宝くじの宣伝と同じ程度の話なのに、学校の教師までが、子どもに夢を持てなんていっている。
世の中に余裕があるから、そんなことをいっていられるのだ。
夢に向かって頑張っていた子どもが、挫折してフリーターになっても、なんとか喰っていける世の中だから、夢を追いかけろなんて無責任なことがいえる。
つづく