昨日の続きです。
メーカー側も、自動運転の技術を磨く上で、倫理的側面からの議論の必要性を強く感じているようです。
ホンダで車両制御システムの研究開発に携わってきた技術者は、「単に事故を起こさないことだけではなく、何をどのように配慮するのかという価値観(を考えること)が、非常に重要になってくる」と話しています。
ドイツでは2017年、政府が立ち上げた倫理委員会が、自動運転車とコネクテッドカー(つながる車)に関する倫理指針を策定しました。
命の軽重を年齢や性別といった個人の特徴で区別しないことや、責任の所在を明確にできる記録を残すことなど、20の規則を示しています。
自動運転に特化した同様の提言は欧州連合(EU)や米国にもあります。
日本政府は19年3月、人工知能(AI)の開発や活用に関する「AI社会原則」を策定しているものの、自動運転に特化したものではありません。
そうした中、日本でも民間主導で、法学や倫理学、工学などさまざまな分野から専門家10人が集まり、「自動運転倫理ガイドライン研究会」が21年9月に立ち上がりました。
樋笠尭士代表(多摩大学専任講師、名古屋大学客員准教授)は、「メーカーが車内の人を守るのは当たり前だが、歩行者を犠牲にしてはならないのも当たり前。その対立が表れてしまうのが自動運転の世界だ」と話しています。
樋笠尭士代表はまた、車に乗っていない人命にも影響が及ぶ特異性から、自動運転固有の倫理指針の必要性を強調し、国にも働き掛けたいとも考えています。
研究会は今年6月にシンポジウムを開催し「自動運転倫理ガイドライン案」を公開しました。
乗員や歩行者の別を問わず人命を尊重することや、メーカーは自動運転システムが作動する条件などを誇張せず使用者に伝えることなど、計11の指針を示しています。
ドイツの指針では、トロッコ問題は不測の事態が多く一般化が難しいため、事前のプログラミングはすべきでないとの立場を示しています。
樋笠代表は「ある意味(独の指針は)、メーカーを悩みから解放してあげている。でも、それでいいのかというのがわれわれの考え方だ」と述べています。
そこで研究会はトロッコ問題への対応について、指針の中で、時代によって変わっていく価値観に応じ、業界全体で方向性を定めることを目指すべきだとしました。
事前のプログラミングを否定せず、独の指針とは異なる立場を取ったのです。
つづく