hayatouriの日記

はやとうり の独り言

『一万石の恋』とお殿様  その5

昨日の続きです。

すったもんだの末に汁粉屋が開店します。

 

しかしそこは元武士、お客さんに向かってもその習慣が出てしまいます。
 

熊さん 「お汁粉の看板を見て・・・」


取次ぎ 「その方、汁粉を食(しょく)しに参ったのか?」


熊さん 「いやぁ、食べに参ったので・・・」


取次ぎ 「暫時、そこに控えていろ!」


 などと大騒動が始まります。


 御用人 「ああ、汁粉が食したいと申すはその方か。住所姓名を尋ねる」


熊さん 「汁粉食べるのに一々、所と名前を言うんですかい?」


御用人 「ご当家の家法だから仕方ない。不届き者が参って盗みを働かんとも限らぬ」


熊さん 「どうも驚いたね。へえ、神田小川町熊五郎・・・」


御用人 「あい分かった。当家には御膳汁粉田舎汁粉があるがいずれを食すか?」


熊さん「へえー、それでは御膳の方を二杯ばかり・・・」


御用人 「二杯、それは駄目だ。二杯でも十杯でも作る手間は同じだ。二杯ぐらいの商いでは当家に利益は出ない」


熊さん 「それではどれくらい食べたらよろしいんで?」


御用人 「十杯食え」


熊さん 「十杯!・・・一杯いくらで?」


御用人 「一杯一分じゃ」


熊さん 「えっ、お椀一杯ですよ、手桶じゃござんせんよ。高過ぎますよ」


御用人 「なに!高いと申すか。もっと前へ出ろ!・・・王政復古の御代となり・・・我々旗本八万騎は士族と言う称号を賜り・・・高いなどとは不届き千万なやつだ。今一言申して見ろ、ここままには捨て置かんぞ」


熊さん 「分かった、分りましたよ」


御用人 「よおし、汁粉の値段が承知とあらば、これから汁粉の製造に取り掛かるから、しばしここに控えおろう」
 
まるでお白洲で待っているような状況が描かれます。
 

これからこの世間知らずの士族とその家族・御用人は、熊さんを巻き込んで、大騒動を起こしていくのであります。

 

ちょいと士族を皮肉った当時の世相を想い起こさせる楽しい落語です。

 

つづく