昨日の続きです。
医学の進歩にとって「解剖」というものが不可欠であるというお話でしたね。
しかし、死体解剖は平たく言えば、ご遺体を傷つける行為でありであり、臓器を調べるには当然のことながら遺体の切開を行わなければなりません。
死因が不明だからといって、わが子の遺体に傷が付くと思うと親は恐怖を感じてしまうことがあるでしょう。
「子どもの死体解剖は社会的に容認できないと考える親や、自分の赤ちゃんをそんな目に遭わせたくないと思う親が増えています」と、グレート・オーモンド・ストリート病院で放射線科教授を務めるオーウェン・アーサーズ医師は話しています。
英国では、半数以上の親が死産の死体解剖を拒否する現実があるといいます。
そして生後28日未満に亡くなる新生児死亡においては、4分の3の親が拒否しているのです。
この数十年間で英国や米国、欧州諸国では、子どもの死体解剖を了承する比率は低下しており、歴史的な低水準に達しています。
この状況は、いくつかの要因によって説明できます。
その要因のひとつは、1999年に英国のリバプールのアルダー・ヘイ病院で、よからぬ医師が多くの子どもの臓器を倫理に反して保管していたこと。
また、子どもを失った親がユダヤ教徒やイスラム教徒である場合、その多くは宗教上の理由から死体解剖を拒否しています。
ユダヤ教やイスラム教では遺体の切断が禁じられており、死後はできるだけ早く遺体を埋葬しなければならないと決められているからです。
しかし一方で親にしてみれば、わが子の死を防げたのではないか、もっと何かできたできたのではないかと思い悩むことで、子どもの死がいっそう辛いものになりかねません。
そこで、前出のオーウェン・アーサーズ医師が率いるグレート・オーモンド・ストリート病院のチームは、このような状況の改善を支援しよう取り組みを進めています。
アーサーズ医師が率いるチームは、通常の解剖で必要とされる処置をとらずに済む方法を開発したのです。
超音波やMRI、CTスキャンなど、体内の詳細を明らかにする画像診断技術を組み合わせることで、従来の侵襲的な解剖と同等の精度で子どもの死因を確定できるようにしたのです。
もし画像診断では不十分なら、少ない切開で臓器の組織のサンプルを採取し検査するといいます。
アーサーズ医師はこう語ります。
「常に死因を特定できるわけではありません。
それでも親の話では、死因が明らかになることで気持ちが本当に楽になるそうです。
多くの親は子どもの死の責任が自分にあり、何か間違ったことをしたせいだと考えるからです。」
アーサーズのチームの研究者で小児放射線科の指導医であるスーザン・シェルマーディン医師もこのように説明します。
「子どもの死因が親にないとわかるだけでも、心理的な負担が軽減されることが実際に証明されています」
つづく