昨日の続きです。
通常、国家の予算は政府の各部門が事業に必要な経費を積み上げて財務当局に要求し、論議、調整して国会の了承を得て決められます。
しかし今回の防衛費増額は米国の意向により方針が決まりました。
突然予算枠が2倍になるのは、はたして防衛省にとって棚からボタ餅なのでしょうか?
年に5兆円の巨費を何に使うかは、今年中に次の「中期防衛力整備計画」(24年から5年)や「防衛計画の大綱」(約10年)、「国家安全保障戦略」を決めて使途が具体化されます。
つまり下から積み上げた議論がないために、何もかもがこれからの課題なのです。
ところが自衛隊の規模を抜本的に拡大するのはほぼ不可能と思われるのが現実です。
なぜなら、そもそも自衛隊は隊員の募集に苦労し、今でも大きな定員割れになっているのです。
防衛省設置法では人員24万7154人だが、21年3月末の現員は23万2509人で、1万4645人の欠員とが出ています。
このため18年からは一般の隊員の採用を「18歳以上33歳未満」に広げました。
32歳の新兵が2等陸士で入隊すると、前年18歳で入隊した隊員は1等陸士に昇任しているので13歳も年下の先輩の指導を受けることになります。
隊員の士気にかかわり、難しいことも起きそうですが自衛隊はとにかく隊員確保に苦労しています。
特に海上自衛隊は法的定員4万5329人に対し、現員は4万3419人で1910人の定員割れになっているようです。
艦艇の乗組員は持ち場が決まっていますから、乗員が不足のまま出港するのは危険を伴うことになります。
このため従来の2千トン級の護衛艦の定員は120人でしたが、その後継の3900トンの護衛艦は定員を90人にするスリム化で設計されました。
また、女性の応募者を増やすため女性士官の登用を進めています。
最精鋭の第1護衛隊群(横須賀・ヘリ空母1隻、護衛艦3隻)の司令に女性一佐(大佐)が任じられた事はその1つの現れです。
この制度とは、普段は社会人や学生として企業や大学などに在籍しながら、年間で定められた日数の訓練に参加し、有事においては招集され自衛官となり、国防や災害派遣などの任務に就く制度です。
ちなみに予備自衛官については、年48,000円の予備自衛官手当が支給されるほか、訓練1回当たり 8,100円の訓練招集手当が支給されています。
また予備自衛官が有事の際に任務についた場合、所属する企業は人員的な損失を被ります。
防衛省はその場合でも、企業が被る経済損失を補填する補助金等などをきちんと制度化しています。
しかし現在の予備自衛官の定員は4万7900人ですが、充足率は定員の約7割に過ぎません。
よしんば現在の定員どおりの人数が集まったとしても現役の2割~2割5分ほどにしかならないのです。
結論として、全体としては今後も人員はさほど増やせませんから、現在の防衛予算の42%を占める人件費・糧食費は急増しそうにありません。
つまり増額される防衛予算約5兆円の大部分は装備費、研究開発費に回りそうな気配です。
これは4千億円の原子力潜水艦を毎年12隻建造できるほどの額となります。
私たちもその使われ方を注視しなければなりません。
前回のブログでも紹介しましたが、防衛費を世界第3位にする「抜本的強化」は日本が軍事的列強の一国となる点で、憲法改定以上に実質的な変貌となる可能性があります。
またその財源をどう確保するのかという大問題も残されています。
残念ながら今回の参議院選挙の中ではこの財源問題は争点となりませんでした。
というか、むしろ自民党は意図的に財源問題を表に出さずに選挙を乗り切った感は否めません。
いずれにせよ、この防衛予算のあり方は国の行方を大きく変える始まりになってしまう恐れがあるのです。