『俊寛』は近松門左衛門の長編『平家女護島(へいけにょごのしま)鬼界ヶ島』の一場面です。
「平家にあらずんば人にあらず」と政権を独占してやりたい放題の平家。
その平家が滅びていく話がこのお話です。
その平家滅亡に大きな役割を果たしたのが女性パワーです。
特に3人の女性
源義経のお母さんの常盤御前
瞬間の妻の東屋(あづまや)
そしてこの『俊寛』の場に登場する海女の千鳥
この3人が重要な役割を果たします。
常盤御前のほうは息子義経と一緒に、源氏に味方してくれる人たちを集めます。
あとの2人、東屋と千鳥は平清盛を直撃します。
「女と言うものは怒りゃすねるし叩けば泣くし、殺しゃ夜中に化けて出る」
などと古今亭志ん生の落語の枕によく出てきます。
これはそういう都々逸が元になったそうです。
まぁ当時はそういうように女性を見ていたようですね。
そういや「四谷怪談」のお岩さんも「番長皿屋敷」のお菊さんも化けて出てきました。
このように歌舞伎に出てくる女性は、生きているときは弱くても幽霊になって思いを遂げます。
それが千鳥と東屋ダブルパワーできたんですからひとたまりもありません。
さすがの平家も女性パワーの前に滅ぶことになります。
「弱者の思いは世の中を変えていくんだ」と近松門左衛門は言いたかったのかもしれません。
『俊寛』の場面で千鳥はこういう風に言っています。
「武士(もののふ)はもののあわれを知るというは、偽り虚言(そらごと)よ 鬼界ヶ島に鬼はなく 鬼は都にありけるぞや」
侍は情けの道理をわきまえているとは嘘ばっかり!鬼の国という名のこの島には真心があるのに。
政治の中心、都こそ情け知らずの鬼の国だ!
と叫ぶのです。
近松門左衛門はこんな大胆なセリフを、徳川幕府で侍の政権が100年ばかり続いている江戸時代の真っ只中で、役者に言わせているのです。
それはそれは大変勇気のいることだったでしょう。
次回は千鳥について少しご紹介しましょう。
つづく