角幡唯介(かくはたゆうすけ) さんをご存じでしょうか?
作家であり探検家でもあります。2019年からはグリーンランドの最北の村をベースに犬ぞりで2ヶ月ぐらい旅に出ています。
『極夜行』という本の中では北極圏の夜の雪原を犬ぞりで進む姿が描かれています。
月や星が出ている時はぼんやりと山の位置がわかったりするそうですが、真っ暗の中で自分が今上っているのか下っているのかもわからなくなるようです。
そういう時は自分の足の裏の感覚を最大限に研ぎ澄ますのです。
そして流れてくる風にも敏感になり、風の向きや力でも自分の現在位置を考えるのだそうです。
角幡さんは探検の経験も長く、極地生活にも充分適応できるようになったといいます。
しかしイヌイットの人々にはかなわないといいます。
イヌイットの言葉で「ナルホイヤ」という言葉があるそうですが、これは「わからない」という意味だそうです。
天気を聞いても予定を聞いても「ナルホイヤ」で終わってしまうそうです。
ただこれは厳しい大自然の中で生きていく知恵なのでしょう。
自然現象の予想はできない、未来は予測不可能なのだから、今目の前で起きている現実から判断しなければならない。
さもないと歩むべき道を間違ってしまう。
というイヌイット独特の道徳観があるのです。
これについて面白い逸話があります。
カナダのイヌイットがカリブーという大型動物の狩りに出かけます。
八頭のカリブーのうち、六頭を仕留めます。
二頭は逃げてしまいますが、イヌイットたちは逃げたのは一頭だというのです。
なぜなら自分たちが現実に追いかけて逃げられたのは一頭だったからです。
彼らにとっては現実とはそういうものなのです。
自分の直接体験を全てとみなしているとも考えられます。
それでは角幡さんがイヌイットにかなわないと思った点について紹介したいと思います。
しかし目標とする大型動物やアザラシは生息数が少なく、イヌイットは数百キロも雪原を移動します。
ところが彼らは帰りの分の食料を持たないで狩りに出てしまうのです。
移動先で狩りが成功するかどうかもわからない状態の中でその様な選択をするのです。
さすがの角幡さんもこのマネはできないといいます。
つづく