昨日の続きです。
大きな転換点となったのは2021年10月、中国の動きでした。
当時、中国では、新型コロナウイルスの感染拡大が小康状態となり、経済が正常化する過程で穀物需要が拡大しました。
また電力不足や環境問題への配慮から化学肥料の生産が抑えられており、国内での肥料価格が上昇する傾向にありました。
こうした中で、中国政府は化学肥料を輸出する際に検査を義務づけると発表したのです。
肥料の輸出においてこうした検査をするのは異例のことです。
国内への肥料供給を優先させるために、事実上の輸出規制をとったのではないかと見られています。
発表後、しばらく肥料原料の輸出はストップ。
日本の商社は、代替先探しに追われました。
さらに2月にロシアがウクライナに軍事侵攻を始めます。
ロシアも世界有数の肥料原料大国です。
日本政府は肥料原料を経済制裁の対象にはしていません。
しかし輸入を担当する商社はロシアからの塩化カリウムの輸入を自主的にストップしました。
別の理由でアメリカなどから経済制裁が課せられ、輸入ができなくなっていたベラルーシ分とあわせて26%分の肥料原料の代替調達先を探さなければならなくなったのです。
当然価格も高騰します。
塩化カリウムを見ると、去年1月の5倍近くになっています。
日本の肥料原料の5割の輸入を担うJA全農=全国農業協同組合連合会も対応に追われました。
中国から肥料原料の検査義務づけの通達が出ると、すぐに長年取り引きのあったアフリカのモロッコの企業にリン酸アンモニウムを調達したいと依頼しました。
また、ロシアから輸入していた塩化カリウムはカナダからの輸入を増やすことで当面の必要量を確保しました。
しかし、各国とも同様の動きをしたため、運搬のための船や積み込みをする港もフル稼働状態になりました。
他の商社と船を共同利用するなどして、なんとか日本へ運搬するというギリギリの調整が続いたといいます。
さらに、今後の安定確保にむけてこれまでつきあいの薄かった中東の国などとの交渉も始めています。
しかしどこも需給が厳しくなっていて、交渉は一筋縄ではいかない状態となっているのです。
このように実は日本の農業の根幹に関わる肥料は、綱渡りの状態で何とか確保されてきたのです。
そしてこのような事態はすでに世界的な規模で進んでいるのです。
つづく