糖尿病についてはもはや説明の必要もないほどよく聞かれていると思います。
それもそのはずで日本の成人の糖尿病有病者数は1,100万人と推定されています。
糖尿病は、それ自体は直接命に関わる病気ではありません。
しかし自覚症状がないまま進行して、合併症を起こすことが大きな問題となります。
なかでも「糖尿病性網膜症」、「糖尿病性神経障害」、「糖尿病性腎症」は糖尿病特有のもので、「三大合併症」と呼ばれています。
いずれも血糖値が高い状態が続くことによって、細い血管の障害を引き起こし、発症します。
国際糖尿病連合(IDF)が発表した新たな推計では、世界中で糖尿病が驚くほど急速に増えています。
IDFによると、世界で糖尿病患者数は5億3,700万人に増加しました。
糖尿病の有病率は10.5%に達し、成人の10人に1人が糖尿病に罹患しているといいます。
有効な対策をしないでいると、糖尿病人口は2045年までに46%増加し、7億8,300万人に達するだろうと予想されています。
成人の8人に1人が糖尿病という事態になり、同時期に世界人口は20%増加するとみられており、糖尿病の増加率はその2倍以上に相当します。
皆さんもご存知の通り、糖尿病に対する治療は栄養指導、運動指導からはじまります。
基本的には生活習慣の改善からスタートです。
改善がなければ、内服薬を飲んだり、インスリンの自己注射を行ったりするのが、従来から行われている内科的治療です。
一方で、肥満を合併した糖尿病に対しては外科手術が有効であることをご存知でしょうか。
意外な治療法の可能性が開けてきたのです。
外科手術によって腸をバイパスするという大胆な方法です。
海外での臨床試験によって、食事療法や投薬を上回る効果が示されています。
腸の手術がどうしてブドウ糖代謝に影響するのか、まだ正確にはわかっていませんが、ただ糖尿病の発病に腸が関係しているのは確実とみられ、手術をせずに同様の効果を狙う治療法も開発されてきています。
まず手術の方法ですが、これは胃を縮小したり、バイパスしたりする手術です (下図)。
消化管の一部をバイパスする手術は重度の肥満の人に行われてきたものです。
※この問題点は後述したいと思います。
栄養を吸収する小腸の部分を迂回することによって体重を減らすのです。
このいわゆる「減量手術」は20世紀半ば以降に重度肥満の治療法として一般化しました。
本来は糖尿病の治療を意図したものではありませんが、手術を受けた重度肥満の人は糖尿病を発症していた例が多く、そうした患者の大半が手術後に血糖値が正常になったのです。
食物が消化液と混ざる腸の上部を短くする手術(図は「ルーワイ胃バイパス術」の例)によって、吸収されるカロリーが当然減少します。
栄養素の通過によって腸の細胞が受ける刺激が制限されます。
この手術により血糖の制御がなぜ改善するのか、そのメカニズムの特定が注目されています。
つづく