昨日の続きです。
訪問介護事業所が減っています。
肝心の介護の担い手についてはどうでしょうか?
公的な性格を持つ社協が事業をやめると、採算面などで民間が受けたがらない利用者にサービスが行き届かなくなる恐れが出てきます。
民間事業者が町から撤退してしまい、「高齢者が路頭に迷ってしまう」と新たに訪問介護を始めたケースも一方で出ています。
北海道・新千歳空港近くにある安平町(あびらちょう)の社協です。
担当者は「撤退した事業者のサービスを引き継ぐ形で2年前に始めた。経営は厳しいが、ニーズはまだけっこうある」と話しています。
事業を続ける社協も苦戦しています。
福島県田村市社協は2019年に三つの事業所を一つに統廃合しました。
より高い介護報酬が得られるようサービスの見直しや加算金の取得を進めた結果、黒字転換に成功したのです。
全国社協の機関誌で好事例として取り上げられましたが、その後状況が一変します。
高齢になったヘルパーがここ1年余りで次々と辞め、収入減で再び赤字になってしまいました。
実際にヘルパーの担い手は少ないのです。
ヘルパーのなり手確保に苦労しているのは社協だけではありません。
全国的に見てもヘルパーの約4人に1人は65歳以上となっています。
厚生労働省によると、2022年度時点の有効求人倍率は15・53倍で、深刻な人手不足になっています。
2019年にはヘルパー3人が「移動や待機の時間を考慮しない低賃金が人手不足の原因で、政府に責任がある」として、国に賠償を求めて提訴しました。
現在も東京高裁で係争中です。
厚労省は「移動などの時間も介護報酬に含まれている」との見解を出しています。
見直しを求める声は自治体からも上がっています。
熊本県山都町など8自治体は中山間地での移動時間を適正に取り扱うよう、介護報酬の引き上げを厚労省に要望しています。
来年度は介護報酬の改定年に当たります。
厚労省は「必要な方策を検討する」として、訪問介護と通所介護(デイサービス)の両方を提供する複合型サービスを新たに設ける方向で検討しているようです。
ただ、これは主に都市部を念頭にした案でしかありません。
財源の制約が厳しい中、どこまで実効性のある対策を打ち出せるかは不透明です。
介護保険に詳しい東洋大の高野龍昭教授は「そもそも、訪問介護の報酬が低すぎるのが問題だ」と話しています。
「社協は公益的な役割を担っている存在なので、『赤字だから』『利用者が減っているから』といった理由で事業をやめるのは好ましくない。希望者がいるのなら、サービス提供を続ける責務がある」と。
しかし、過疎地域では一軒一軒の移動時間が長く、採算が厳しいため「そうした事業所には行政が補助金などを出すといった対応も考えるべきだ」と言います。
「地域の介護・医療を持続させるためには今後、高齢者に一定エリアへの集住を促すような施策の検討も必要となるだろう」とも指摘しています。
政府は20年ほど前から「地域包括ケアシステム」と銘打って、重い要介護状態になっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを最期まで続けられるようにすることを目指してきました。
訪問介護は本来、その要となるサービスのはずですが、ヘルパーは低い賃金に抑えられてきたのです。
「地域包括ケア」を掲げながら、矛盾している話ではないでしょうか。
根底には男性目線の「しょせん家政婦と同じで、誰でもできる」という軽視があるようです。
しかし、「生活を支える」という点では医療よりも重要な役割を果たしています。
ヘルパーの在宅ケアを財政面でも再評価し改善していく必要があります。