hayatouriの日記

はやとうり の独り言

安楽死について考える その4

前回の続きです。

 

オランダはかかりつけ医制度をとっています。

 

かかりつけ医が、患者から安楽死を求められた場合に2つの心の動きがあると前回書きました。

 

患者の命をかけた訴えに何とか応えたいという心と医師としての道義的な立場を貫こうとする心の葛藤です。

 

とはいえ、オランダ国民として刑法293条を遵守しなければなりません。

※オランダも、刑法293条で「要請に基づく生命終結の禁止」、294条で「自殺幇助の禁止」を謳っています。

なのでオランダでは、安楽死が「要請に基づく医師による患者の生命の終結である」と定義されるなら、安楽死は法律上犯罪となります。

このように「医師としての二つの義務の相剋」に悩んだあげく、患者の願いを聞いて自発的安楽死をさせた医師の行為には、「オランダ刑法40条」が適用されて違法性阻却を認めることとされています。

 

※違法性阻却とは通常は違法とされる行為について、その違法性を否定する事由を意味します。日本では、民法上のものと刑法上のものがあります。


※オランダ刑法40条は、「緊急避難によってやむをえず犯罪を行った者は、処罰されない」と規定しています。また、不可抗力(overmacht)についての法的根拠も刑法40条に規定されています。すなわち、「不可抗力によってやむを得ず行為した者は可罰的ではない」という規定です。

しかし、違法性が阻却されたからといって、無罪になるとは限らない事件が発生しました。

 

たとえば、「シャボット医師の安楽死事件」がそうでした。

 

少し長い経過になりますが、この事件を追いかけてみたいと思います。

 

この女性(A女史)と、セールスマンをしていた夫との結婚生活は平穏ではありませんでした。

 

夫がアルコール中毒者であったために彼女にしばしば暴力をふるい、夫婦仲が悪かったが、ソーシャルワーカーとして働きながら二人の息子の母親としての生活に幸福を味わっていました。
 

長男が兵役に服し、ドイツに駐在している間にドイツ人と恋におちましたが、その女性に別の恋人ができ、失恋してしまったのです。

 

その結果、長男は、兵役を済ませず、自分の心臓を銃で打ち抜いて自殺してしまい、二〇歳の若さで母を残して先に死んでしまいました。

 

息子に自分の生きがいをかけていたA女史の受けたショックは並大抵ではなく、自殺を考えはじめました。

 

しかし、精神科医の助けを求め、次男のために生きる決意を固め、次男を連れて家出し、二人での生活を始めたのです。

 

その後、夫との離婚は成立したが、前夫からの嫌がらせは後を断ちませんでした。

 

兄の自殺のショックから立ち直れないで苦しんでいる母親を優しく慰めていた次男。

 

ところが、その次男が交通事故に遭い入院してしまいました。

 

けがのほうの心配はなかったけれども、不幸にして次男に癌が発見され、しかも手遅れの状態だったのです。

 

次男は、治りたい意欲を示したけれども、末期癌で化学療法も効かず、非常に苦しんでいました。

 

生命維持装置を付けられて延命治療を受けていましたが、延命だけの目的に疑問をもったA女史は、医師に延命治療の意義について尋ねることにしたのです。

 

 

つづく