この状況について、岸田首相は4月26日の記者会見で次のように話しました。
「ウクライナ情勢で、国際価格は1割以上、足元で上昇していますが、9月までの間、政府の販売価格を急騰する前の水準に据え置きます。合わせて輸入小麦から国産の米や米粉、国産小麦への切り替えを支援いたします」
とりあえず目の前には参議院選挙があります。
選挙前に国民に不安材料を与えてはいけないという思惑が透けて見えます。
しかしその思惑通り事態が進むかは不明です。
実際に小麦の高騰をきっかけに消費者物価上昇率はアメリカと欧州(ユーロ圏)が8%を超えました。
新興国のトルコにいたっては70%に達しようとしています。
3月には2008年2月以来の史上最高値を更新しました。
米シカゴ商品取引所(CBOT)の小麦先物はロシアのウクライナ侵攻でついに14ドルを超えてしまったのです。
その後は高値からの調整を挟み、足元では10~11ドル台で高止まりしています。
歴史をさかのぼってみると、このような高水準のインフレ下では社会的に不安が高まりやすく、ときに体制を揺るがす暴動などが起こることが多くなります。
物価があまりにも上がることによって、庶民が日々の生活に苦しくなってしまうからです。
とくに、小麦などの穀物価格の高騰は国民生活にとって重大な事態です。
ロシアの年間の小麦輸出量は前述のように世界全体の約2割(世界1位)、ウクライナは約1割(世界5位)と、両国合わせて約3割を占めるまでになっています。
今ロシアは小麦など穀物の輸出を制限し、世界的な食糧危機を煽ることで欧米の制裁解除を迫るろうとしています。
「欧州のパンかご」といわれるウクライナです。
(こんな風に呼ばれているのですね)
ロシアの侵攻による被害や住民の避難にともなって穀物生産が停滞しています。
そのうえ、黒海地域の港がロシア軍によって封鎖されているため、海上輸送がまったくできない状況にあります。
ロシアやウクライナに代わる輸出国として期待されていたインド(生産量で世界2位)。
小麦の国内価格が上昇したため、自国での供給を優先し輸出を停止する方針に転換しました。
小麦はインドの家庭の食卓に欠かせないナンの原料となるので、インドが国内備蓄を重視したのでしょう。
小麦価格が高止まりする要因は、これだけではありません。
他の生産国でも天候不順などによって供給が落ち込む懸念が強いのです。
ロシアに次ぐ輸出大国であるアメリカでは、天候が思わしくないことから小麦の作付けが遅れており、輸出量が減る見通しにあります。
アメリカがロシアやウクライナの穴埋めをすると期待が大きかっただけに、世界的に供給不安がいっそう広がっています。
つづく